いろいろな「縮小写像の原理」

「本質的に同じ主張でも書き方によって分かりやすさがかなり異なることは日常的にしばしばあるが,それは多分その主張の中に含まれる概念がどれだけ自分に馴染み深いかによるのだろう」と思った例.

 

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縮小写像の原理 ver. 1

  (X, \rho) を空でない完備距離空間とする.  T X \rightarrow X への写像とし,  T^{n} T n 回合成した写像とする.いまある自然数  N とある正数  K < 1 で

\quad\quad  \rho(T^{N}(f), T^{N}(g)) \le K\,\rho(f, g),\quad f,g \in X

を満たすものがあるとする. f_{0} \in X を任意の元とし, f_{n} = T^{N}(f_{n-1})   (n=1, 2, \dots) と逐次的に定義する.このとき,極限  \lim_{n \rightarrow \infty} f_{n} \in X が存在し, T(f) = f を満たす.また  T(g) = g を満たす  g \in X はただ一つに限る.

 

縮小写像の原理 ver. 2

写像  g:\mathbb{R}^{n} \rightarrow \mathbb{R}^{n} に対して  x_{k+1} = g(x_{k})   (k=0,1,2, \dots) で定める反復列  x_{k}不動点 x=g(x) を満たす点)に収束することを保証する定理として縮小写像の原理がある.以下, L \in (0,\,1) に対して,

 \quad\quad \|g(x) - g(y)\| \le L\|x - y\|, \quad x, y \in F

を満たす  g: F \rightarrow F を縮小写像という.ただし, \| x \| x \in \mathbb{R}^{n} l^{2} ノルムであり, F \subset \mathbb{R}^{n} である.

 F \subset \mathbb{R}^{n}閉集合 g: F \rightarrow F は縮小写像であるとすると,不動点

 \quad\quad x_{*} = g(x_{*}), \quad x_{*} \in F

が一意に存在する.上記の反復列  x_{k} \in F ~ (k=0, 1, 2,\dots) はこの  x_{*} に収束する.ただし, x_{0} \in F は任意である.

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前者はかなり簡潔な言い方をしており,位相論や関数解析に通じている人間にとっては分かりやすい物言いになっていると思う.一方,後者の言い方は前者に比べるとやや冗長ではあるが,「完備距離空間」と聞いてどんな空間かをすぐに思い浮かべられない(位相空間にあまり馴染みのない)人間にとっても分かりやすいのではないかと思う.

上記のような「言い方の問題で分かる/分からない経験」は数学や物理学の勉強をしていると至る所で遭遇する.それゆえ同じような名前の教科書を何冊も買うのは仕方のないことなのである.だから怒らないでよママン......